イシス · エジプトの
大母神(だいぼしん)にして呪術師(じゅじゅつし)
砕(くだ)けたものを再(ふたた)び繋(つな)ぎ合(あ)わせる。ネテルの真(まこと)の名(な)を知(し)る。一人(ひとり)の子(こ)と全世界(ぜんせかい)を同時(どうじ)に抱(いだ)く——古代(こだい)世界(せかい)で最(もっと)も広(ひろ)く崇(あが)められたイシスでございます。
エジプトの神々(かみがみ)の中(なか)で西洋(せいよう)の目(め)が一定(いってい)の親(した)しみをもって出会(であ)う最(もっと)も早(はや)き姿(すがた)がイシスでございます。膝(ひざ)に幼児(ようじ)を抱(いだ)く図像(ずぞう)は後(のち)にキリスト教(きょう)のマドンナ像(ぞう)に流(なが)れ込(こ)みました。嘆(なげ)く者(もの)、癒(いや)し手(て)、呪術師(じゅじゅつし)、女王(じょおう)。ヘレニズム世界(せかい)におけるイシス信仰(しんこう)は実(じつ)に広範(こうはん)で、アレキサンドリアからポンペイへ、小アジアからブリタニアへと召(め)し上(あ)げられました。本来(ほんらい)の文化(ぶんか)の境(さかい)を越(こ)えて広(ひろ)がったネテレトでございます。
一言(ひとこと)申(もう)し添(そ)えますと、イシスはネテレト——女性形(じょせいけい)のネテル、宇宙(うちゅう)の原理(げんり)が個別(こべつ)の姿(すがた)を取(と)ったもの——でございます。西洋(せいよう)の多神教(たしんきょう)的(てき)意味(いみ)での「女神(めがみ)」ではありません。この区別(くべつ)は重要(じゅうよう)です。数多(かずおお)き「神々(かみがみ)」の一(ひと)つではなく、エジプト体系(たいけい)における体現(たいげん)された宇宙(うちゅう)の力(ちから)の一(ひと)つなのでございます。
神話(しんわ) · 崩(くず)れたものを繋(つな)ぎ直(なお)す
イシスの中心神話(ちゅうしんしんわ)はオシリスと深(ふか)く結(むす)ばれます。兄(あに)にして夫(おっと)のオシリスは、嫉妬深(しっとぶか)き弟(おとうと)セトに殺(ころ)され、十四(じゅうよん)の断片(だんぺん)に切(き)り裂(さ)かれ、エジプト各地(かくち)に撒(ま)き散(ち)らされました。イシスは——時(とき)に妹(いもうと)ネフティスと共(とも)に——土地(とち)を巡(めぐ)り、一(ひと)つ一(ひと)つの断片(だんぺん)を見出(みいだ)し、再(ふたた)び繋(つな)ぎ合(あ)わせます。唯一(ゆいいつ)失(うしな)われたままなのが男根(だんこん)(多(おお)くの伝(つた)えではナイルの魚(さかな)に呑(の)まれた)であり、これを呪術的(じゅじゅつてき)に造(つく)り代(か)えました。そしてオシリスに新(あら)たな息(いき)を吹(ふ)き込(こ)み、彼(かれ)からホルスを宿(やど)します。
この神話(しんわ)は単(たん)なる物語(ものがたり)ではありません。イシス信仰(しんこう)の神学的(しんがくてき)基盤(きばん)でございます。彼女(かのじょ)は砕(くだ)けたものを再(ふたた)び繋(つな)ぐ存在(そんざい)——破(やぶ)れた世界(せかい)に在(あ)って人々(ひとびと)が必要(ひつよう)とする最(もっと)も中心的(ちゅうしんてき)な質(しつ)の一(ひと)つです。
イシスは、すべてが順調(じゅんちょう)であるから現(あらわ)れるのではない。何(なに)かが今(いま)砕(くだ)け、それを繋(つな)ぎ直(なお)す者(もの)が必要(ひつよう)であるから現(あらわ)れるのである。それが彼女(かのじょ)の贈(おく)り物(もの) · そして力(ちから)。
その諸名(しょめい)
- アセト · エジプト名(めい) · 「玉座(ぎょくざ)」 · 名(な)のヒエログリフは頭(あたま)に載(の)せた玉座(ぎょくざ)
- ウェレト・ヘカウ · 「呪術(じゅじゅつ)に大(おお)いなる者(もの)」 · 呪術(じゅじゅつ)の諸技(しょぎ)の主(あるじ)
- ネテルの母(はは) · ヘレニズム期(き)、大母神(だいぼしん)として崇(あが)められる
- 天空(てんくう)の主(あるじ) · 天(あま)に座(ざ)し、朝(あさ)の星(ほし)として
- ステラ・マリス · 「海(うみ)の星(ほし)」 · 後期(こうき)の地中海(ちちゅうかい)イシス信仰(しんこう)において
- ミュリオーニュモス · 「万(よろず)の名(な)を持(も)つ者(もの)」 · アプレイウスの呼称(こしょう) · 各地(かくち)で異(こと)なる名(な)で崇(あが)められたゆえ
呪術師(じゅじゅつし)としてのイシス
見落(みおと)されがちなイシスの一面(いちめん)が呪術師(じゅじゅつし)としての役(やく)でございます。ある神話(しんわ)では、彼女(かのじょ)はラーの唾(つば)から自(みずか)ら造(つく)った蛇(へび)でラーを傷(きず)つけます。毒(どく)に苦(くる)しむラーに救済(きゅうさい)を申(もう)し出(で)——条件(じょうけん)は一(ひと)つ。真(まこと)の名(な)を明(あ)かすこと。ラーは初(はじ)め拒(こば)みますが、やがて屈(くっ)し、イシスは彼(かれ)に対(たい)する力(ちから)を得(え)ます。
この物語(ものがたり)は、西洋(せいよう)・キリスト教(きょう)的(てき)な優(やさ)しき母(はは)像(ぞう)を打(う)ち破(やぶ)るイシスを示(しめ)します。彼女(かのじょ)は機略(きりゃく)に富(と)む。呪術(じゅじゅつ)を目的的(もくてきてき)に用(もち)いる。本来(ほんらい)受(う)け取(と)るべきもの未満(みまん)では満足(まんぞく)せぬ。女性的(じょせいてき)力(ちから)が必(かなら)ずしも穏(おだ)やかである必要(ひつよう)はないと体験(たいけん)したい実践者(じっせんしゃ)にとって、ことのほか強(つよ)い力(ちから)を持(も)つ姿(すがた)です。
癒(いや)し手(て)としてのイシス
もう一(ひと)つの中心的(ちゅうしんてき)側面(そくめん)。イシスはエジプトの神々(かみがみ)の中(なか)で知識(ちしき)に最(もっと)も長(た)けたネテレトとして崇(あが)められ、健康(けんこう)の事(こと)に呼(よ)び求(もと)められました。伝承(でんしょう)においては草木(くさき)の知(し)り、儀礼(ぎれい)の知(し)り、効(き)く言葉(ことば)の知(し)りを担(にな)う者(もの)。古代(こだい)世界(せかい)においてその神殿(しんでん)は、人々(ひとびと)が安(やす)らぎを求(もと)めて訪(おとず)れる場(ば)として、アスクレピオス神殿(しんでん)と並(なら)び古代(こだい)世界(せかい)で最(もっと)も知(し)られた癒(いや)しの地(ち)でございました。
現代(げんだい)のシャーマンにとってこの側面(そくめん)は重要(じゅうよう)ですが、法的(ほうてき)に繊細(せんさい)です。古代(こだい)の伝統(でんとう)において癒(いや)しの諸技(しょぎ)に長(た)けたネテレトとして語(かた)りますが、当方(とうほう)の業(わざ)において約束(やくそく)を行(おこな)うことはございません。彼女(かのじょ)との出会(であ)いは困難(こんなん)な状況(じょうきょう)を安定(あんてい)化(か)させる空間(くうかん)を開(ひら)き得(え)ますが、医療的(いりょうてき)な確約(かくやく)は行(おこな)いません。
イシスの密儀(みつぎ)
シャーマニズム業(わざ)にとって最(もっと)も興(きょう)味深(ぶか)い側面(そくめん)——イシス密儀(みつぎ)です。ヘレニズム・ローマ世界(せかい)においてイシス信仰(しんこう)への入信儀礼(にゅうしんぎれい)が行(おこな)われ、アプレイウスは『黄金(おうごん)のロバ』(2世紀(せいき))第11巻(かん)に記述(きじゅつ)しております。入信者(にゅうしんしゃ)は夜(よる)の儀礼(ぎれい)で諸段階(しょだんかい)を導(みちび)かれる——象徴的(しょうちょうてき)な死(し)、冥界(めいかい)の通過(つうか)、上界(じょうかい)・下界(かかい)のネテルとの邂逅(かいこう)、明(あか)き光(ひかり)への入(い)り、変(か)わって戻(もど)ること。
これは古典的(こてんてき)なシャーマニズム構造(こうぞう)です。死(し)、通過(つうか)、再生(さいせい)。イシス密儀(みつぎ)は古代(こだい)世界(せかい)で最(もっと)も精緻(せいち)に記述(きじゅつ)されたシャーマニズム的(てき)入信儀礼(にゅうしんぎれい)の一(ひと)つでございました。今日(こんにち)はその歴史的(れきしてき)形態(けいたい)では参入(さんにゅう)できませんが、その構造(こうぞう)は儀礼的(ぎれいてき)文脈(ぶんみゃく)の中(なか)で再(ふたた)び息(いき)を吹(ふ)き返(かえ)し得(え)ます。
現代(げんだい)実践(じっせん)におけるイシス
現代(げんだい)のシャーマニズム的(てき)接近(せっきん)においてイシスには特別(とくべつ)な強(つよ)みがございます——精緻(せいち)であること。具体的(ぐたいてき)に何(なに)かが為(な)されねばならぬとき、彼女(かのじょ)は来(きた)ります。流(なが)れ去(さ)ることをよしとせぬ。オシリスを繋(つな)ぎ直(なお)した再構成(さいこうせい)のエネルギーが、彼女(かのじょ)との邂逅(かいこう)において感(かん)じ取(と)られます。
これは崩(くず)れの局面(きょくめん)にある方々(かたがた)にとって理想的(りそうてき)なネテレトとなります。別離(べつり)、喪失(そうしつ)、固(かた)く在(あ)ったすべてが溶(と)け出(だ)すかに見(み)える局面(きょくめん)——それが彼女(かのじょ)の領分(りょうぶん)。彼女(かのじょ)は来(き)て、感傷的(かんしょうてき)にならず、業(わざ)を始(はじ)める。一度(いちど)儀礼的(ぎれいてき)枠(わく)で彼女(かのじょ)と業(わざ)を共(とも)にした者(もの)は、楽観(らっかん)からではなく具体的(ぐたいてき)体験(たいけん)から来(く)る種類(しゅるい)の確信(かくしん)を知(し)ります。
Shamanic Worlds におけるイシス
当方(とうほう)のエジプト実践(じっせん)においてイシスは中心的(ちゅうしんてき)な姿(すがた)の一(ひと)つでございます。とくに大(おお)いなる移行(いこう)の局面(きょくめん)の入信業(にゅうしんわざ)において。儀礼(ぎれい)は実体験(じったいけん)の場(ば)で共(とも)に行(おこな)われます。重要(じゅうよう)なことに、エジプトの流(なが)れは古代(こだい)密儀(みつぎ)の形(かたち)で伝(つた)えるのではなく、2026年(ねん)の西洋(せいよう)実践者(じっせんしゃ)にとって担(にな)える形(かたち)で伝(つた)わります。
力(ちから)と深(ふか)みを同時(どうじ)に担(にな)う女性(じょせい)的(てき)な神聖(しんせい)な姿(すがた)を求(もと)める方(かた)には、イシスはしばしば予期(よき)せぬほど合致(がっち)する出会(であ)いとなります。
母(はは)にして呪術師(じゅじゅつし)に触(ふ)れる
イシスとの業(わざ)は Shamanic Worlds のエジプトの系譜(けいふ)の儀礼(ぎれい)の枠(わく)の中(なか)で起(お)こります。