エジプト2026年4月20日 · 8分(ふん)で読(よ)めます

ハトホル · 愛(あい)、音楽(おんがく)、
喜(よろこ)びのネテレト

角(つの)の間(あいだ)に太陽(たいよう)円盤(えんばん)を戴(いただ)く牝牛(めうし)のネテレト · 舞(まい)、麦酒(ばくしゅ)、感官(かんかん)の悦(よろこ)び、童(わらべ)の遊(あそ)びの主(あるじ)。美(うつく)しさを聖(きよ)とするネテレトでございます。

ハトホル · 愛(あい)と音楽(おんがく)と感性(かんせい)の力(ちから)

エジプトの神々(かみがみ)においてセクメトが赤(あか)を担(にな)うのに対(たい)し、ハトホルは金(こがね)を担(にな)います。喜(よろこ)びを齎(もたら)すネテレトでございます。音楽(おんがく)、舞(まい)、愛(あい)、感官(かんかん)の悦(よろこ)び、美味(おい)しき食(しょく)、葡萄酒(ぶどうしゅ)と麦酒(ばくしゅ)、童(わらべ)の生(いのち)、夫婦(ふうふ)の悦(よろこ)び、朝(あさ)の美(うつく)しさ——すべて彼女(かのじょ)の領分(りょうぶん)です。しばしば真面目(まじめ)に過(す)ぎる霊性(れいせい)伝統(でんとう)において、浅(あさ)くならずに再(ふたた)び軽(かろ)やかになるための招(まね)きでございます。

一言(ひとこと)申(もう)し添(そ)えますと、ハトホルはネテレト——女性形(じょせいけい)のネテル、宇宙(うちゅう)の原理(げんり)が個別(こべつ)の姿(すがた)を取(と)ったもの——でございます。西洋(せいよう)の多神教(たしんきょう)的(てき)意味(いみ)での「女神(めがみ)」ではございません。この区別(くべつ)が肝心(かんじん)です。

その名(な)と姿(すがた)

ハトホルとは語義(ごぎ)として「ホルスの家(いえ)」——フゥト・ヘル。若(わか)きホルスの母(はは)あるいは乳母(うば)。最(もっと)も多(おお)い姿(すがた)は、牛(うし)の耳(みみ)を持(も)つ女性(じょせい)、あるいは全姿(ぜんし)牝牛(めうし)であり、額(ひたい)に二(ふた)つの角(つの)の間(あいだ)に太陽(たいよう)円盤(えんばん)を載(の)せます。牛(うし)はエジプト人(じん)にとって母(はは)の動物(どうぶつ)そのもの——養(やしな)い、温(あたた)かく、忍耐強(にんたいづよ)く、慈(いつく)しみ深(ぶか)き者(もの)です。

美(うつく)しさのネテレト

エジプト神学(しんがく)においてハトホルは、生(いのち)を美(うつく)しくするすべての事(こと)を司(つかさど)ります。これは小(ちい)さな範疇(はんちゅう)ではない。エジプト人(じん)は美(うつく)しさを表面的(ひょうめんてき)な装飾(そうしょく)ではなく、マアトに立(た)つことの徴(しるし)と理解(りかい)しました。美(うつく)しい身体(からだ)、美(うつく)しい庭(にわ)、美(うつく)しい旋律(せんりつ)——これらは宇宙(うちゅう)の秩序(ちつじょ)がここに生(い)けるものとなった徴(しるし)です。

ゆえにハトホルは西洋(せいよう)の化粧的(けしょうてき)な意味(いみ)での美(うつく)しさのネテレトではない。宇宙(うちゅう)の秩序(ちつじょ)が感官(かんかん)の形(かたち)に現(あらわ)れる時(とき)を見(み)抜(ぬ)くネテレトでございます。霊性(れいせい)における過剰(かじょう)な「美(うつく)しさ」を警戒(けいかい)する実践者(じっせんしゃ)にとっても、真摯(しんし)に受(う)け止(と)めるべき姿(すがた)です。

ハトホルにおいては笑(わら)ってよろしい。これは弱(よわ)さではなく神学(しんがく)である。彼女(かのじょ)における聖(せい)は喜(よろこ)びと分(わ)かたれない。これを学(まな)ぶ者(もの)は、ネテルの世界(せかい)への全(まった)く新(あたら)しい入(い)り口(ぐち)を見出(みいだ)す。

七柱(ななはしら)のハトホル

興味深(きょうみぶか)い特性(とくせい)——彼女(かのじょ)は七柱(ななはしら)の姿(すがた)で現(あらわ)れます。七柱(ななはしら)のハトホルは子(こ)の誕生(たんじょう)に現(あらわ)れてその運命(うんめい)を定(さだ)めます。モイラやノルンのような運命(うんめい)のネテレト的(てき)姿(すがた)。しかし七柱(ななはしら)はエジプト特有(とくゆう)です。それぞれが異(こと)なる側面(そくめん)を担(にな)う——一(いち)柱(はしら)は愛(あい)を、一(いち)柱(はしら)は成功(せいこう)を、一(いち)柱(はしら)は芸(げい)を、一(いち)柱(はしら)は豊穣(ほうじょう)を、一(いち)柱(はしら)は祖霊(それい)との繋(つな)がりを、というふうに。

音楽(おんがく)のネテレト

中心的(ちゅうしんてき)な側面(そくめん)です。ハトホルは音楽(おんがく)の主(あるじ)。その巫女(みこ)たちは歌(うた)い手(て)・舞(まい)手(て)でした。シストラムと申(もう)す金属製(きんぞくせい)の儀礼(ぎれい)鳴具(なりぐ)が彼女(かのじょ)の聖(きよ)き楽器(がっき)です。シストラムを振(ふ)る者(もの)は、文字通(もじどお)りハトホルを振(ふ)る。音(おと)は明(あか)るく、打鳴(うちな)らされ、喜(よろこ)ばしい——荘厳(そうごん)な鐘(かね)ではなく、ほぼ童子(どうじ)の振(ふ)り鳴(な)らしのような響(ひび)きで、喜(よろこ)びを呼(よ)び出(だ)します。

ハトホル神殿(しんでん)において音楽(おんがく)は付属(ふぞく)ではなく儀礼(ぎれい)業(わざ)の中核(ちゅうかく)でした。現代(げんだい)実践者(じっせんしゃ)にとって重要(じゅうよう)な思(おも)い起(お)こしです——音楽(おんがく)は伴奏(ばんそう)ではなく儀礼(ぎれい)そのもの。ハトホルと業(わざ)を共(とも)にする者(もの)はしばしば自(みずか)らの声(こえ)、音(おと)、リズムと共(とも)に業(わざ)を行(おこな)います。

セクメトとの逆理(ぎゃくり)

重要(じゅうよう)な点(てん)——エジプト神学(しんがく)においてハトホルとセクメトはしばしば同一(どういつ)のネテレトの二相(にそう)です。神話(しんわ)によれば、ハトホルが怒(いか)りにおいてセクメトとなり、赤(あか)き麦酒(ばくしゅ)を飲(の)んだのち再(ふたた)びハトホルとなったと申(もう)します。二重性(にじゅうせい)は分離(ぶんり)ではない——同(おな)じ力(ちから)がある瞬間(しゅんかん)に憤(いか)りであり、別(べつ)の瞬間(しゅんかん)に養(やしな)い得(え)るとの認識(にんしき)です。

シャーマニズム実践者(じっせんしゃ)にとって学(まな)びとなります。ハトホルを呼(よ)ぶ者(もの)はセクメトをも知(し)る。力(ちから)の優(やさ)しき側面(そくめん)のみを受(う)け入(い)れる者(もの)は深(ふか)さを逃(のが)します。

供物(くもつ)と儀礼(ぎれい)

  • 乳(ちち) · 古典的(こてんてき)な供物(くもつ) · 牝牛(めうし)のネテレトゆえに自明(じめい)
  • 麦酒(ばくしゅ)と葡萄酒(ぶどうしゅ) · 少量(しょうりょう) · 享(きょう)受(じゅ)を許(ゆる)されたネテレト
  • 音楽(おんがく) · 何(なに)であれ · とくに律動(りつどう)の楽器(がっき)
  • 花(はな) · とくに蓮(はす)
  • 鏡(かがみ) · 美(うつく)しき佇(たたず)まいのネテレト
  • 香水(こうすい) · とくに甘(あま)き香油(こうゆ)
  • 金色(きんいろ) · その領分(りょうぶん)は温(あたた)かく輝(かがや)くもの

現代人(げんだいじん)にとってのハトホル

多(おお)くの現代(げんだい)実践者(じっせんしゃ)——とくに厳(きび)しく主(おも)に内省的(ないせいてき)な霊性(れいせい)から来(き)た方々(かたがた)——にとって、ハトホルは予期(よき)せぬ手引(てび)きの存在(そんざい)となります。彼女(かのじょ)は申(もう)す——身体(からだ)は喜(よろこ)んでよろしい。食(しょく)は美味(おい)しくてよろしい。舞(まい)は魂(たましい)を開(ひら)いてよろしい。感官(かんかん)の悦(よろこ)びは霊性(れいせい)の対極(たいきょく)ではなく、その道(みち)の一(ひと)つである。

霊性(れいせい)を禁欲(きんよく)と厳粛(げんしゅく)と等(ひと)しく見(み)る文化(ぶんか)において、この声(こえ)は新鮮(しんせん)で癒(いや)しでございます。ハトホルは「聖(せい)」と「生(いのち)の喜(よろこ)び」の間(あいだ)の分(わ)けを溶(と)かす助(たす)けとなる。多(おお)くの西洋(せいよう)実践者(じっせんしゃ)が切(せつ)に必要(ひつよう)とする贈(おく)り物(もの)です。

Shamanic Worlds におけるハトホル

当方(とうほう)のエジプト実践(じっせん)においてハトホルは特定(とくてい)の儀礼的(ぎれいてき)文脈(ぶんみゃく)で呼(よ)び求(もと)められます——喜(よろこ)びが求(もと)められる瞬間(しゅんかん)、自(みずか)らの感官(かんかん)との業(わざ)、過剰(かじょう)に厳(きび)しくなった生(いのち)の局面(きょくめん)を解(と)きほぐすとき。その存在(そんざい)は浅(あさ)くならずに軽(かろ)やかにします。

当方(とうほう)の業(わざ)の根本(こんぽん)的(てき)性質(せいしつ)の一(ひと)つである「霊的(れいてき)力(ちから)としての感官(かんかん)」は、ハトホルにおいて最(もっと)も澄(す)んだ神話的(しんわてき)姿(すがた)を見出(みいだ)します。アイリーンの並行(へいこう)プロジェクト tantracat.com はまさにこの次元(じげん)を深(ふか)く扱(あつか)っております。

霊的(れいてき)道(みち)としての喜(よろこ)び

ハトホル儀礼(ぎれい)は Shamanic Worlds のエジプト系譜(けいふ)において美(うつく)しさと感官(かんかん)の次元(じげん)を開(ひら)きます。

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マーク・ホサック博士(はかせ)

東(ひがし)アジア美術史(びじゅつし) 博士(はかせ) · 狼(おおかみ)シャーマン · エジプト象徴学(しょうちょうがく)の研究者(けんきゅうしゃ)

京都大学(きょうとだいがく)にて三年(さんねん)の研究 · 四国八十八ヶ所(しこくはちじゅうはちかしょ)巡礼(じゅんれい)を徒歩(とほ)にて · 三十年(さんじゅうねん)以上(いじょう)にわたる狼(おおかみ)シャーマニズム、ヴードゥー、エジプトと日本のシャーマニズムの実践(じっせん)。シャーマニズムの系譜(けいふ)におけるエジプトのネテル(自然力(しぜんりょく))との関(かか)わり。

アイリーン・ヴィースマン

歴史学修士(れきしがくしゅうし) · 博士課程(はかせかてい) · シャーマン · メンター

儀礼(ぎれい)と象徴学(しょうちょうがく)を研究主題(けんきゅうしゅだい)とする宗教史家(しゅうきょうしか) · 繊細(せんさい)な感受性(かんじゅせい)を持(も)つ方々(かたがた)のためのメンター。