道教(どうきょう)2026年4月20日 · 8分(ふん)で読(よ)めます

符(ふ) · 道教(どうきょう)の
文字(もじ)呪術(じゅじゅつ)

黄(き)の紙(かみ)に朱砂(しゅしゃ)の赤(あか)、一(ひと)息(いき)で描(えが)かれる · 焼(や)き、水(みず)に溶(と)き、飲(の)む。符(ふ)は道教(どうきょう)呪術(じゅじゅつ)の最(もっと)も濃密(のうみつ)な形(かたち)でございます。

符(ふ) · 道教(どうきょう)の文字(もじ)呪術(じゅじゅつ) · マーク・ホサック博士(はかせ)のシャーマニズム実践(じっせん)
符(ふ) · 道教(どうきょう)の御札(おふだ)

中国(ちゅうごく)の街区(がいく)——台北(タイペイ)、香港(ホンコン)、北京(ペキン)の古(ふる)き街区(がいく)——のある家(いえ)の入口(いりぐち)に、赤(あか)い記号(きごう)を書(か)いた黄(き)の紙(かみ)が掛(か)かっています。通常(つうじょう)の意味(いみ)での漢字(かんじ)ではない、書(しょ)に似(に)ているが既知(きち)の字(じ)を成(な)さぬ独特(どくとく)の曲線的(きょくせんてき)な筆致(ひっち)。それが符(ふ)(符)、道教(どうきょう)の御札(おふだ)でございます。家(いえ)を守(まも)り、悪(あ)しきを遠(とお)ざけ、善(よ)きを呼(よ)ぶ。西洋(せいよう)語(ご)で申(もう)せば、具体的(ぐたいてき)な意味(いみ)での呪術(じゅじゅつ)——働(はたら)く文字(もじ)です。

本記事(ほんきじ)は道教(どうきょう)総覧(そうらん)「道教(どうきょう)のシャーマニズム · 巫(ふ)、内丹(ないたん)、仙人(せんにん)」のあるテーマを掘(ほ)り下(さ)げます。

淵源(えんげん)について一言(ひとこと) · 符(ふ)の業(わざ)は仏教(ぶっきょう)からではなく、より古(ふる)いシャーマニズム的(てき)な巫(ふ)の層(そう)から育(そだ)ちました。これを発展(はってん)させた道教(どうきょう)の祭官(さいかん)・呪術師(じゅじゅつし)は、商(しょう)代(だい)の卜骨(ぼっこつ)シャーマンに至(いた)る系譜(けいふ)に立(た)っております。

符(ふ)とは何(なに)か

漢字(かんじ)の(符)はもともと「印(しるし)」「割符(わりふ)」を意味(いみ)します。古代(こだい)には木(き)あるいは金属片(きんぞくへん)を割(わ)ったその半分(はんぶん)で、契約(けいやく)の真正性(しんせいせい)を確(たし)かめるもの。両者(りょうしゃ)がそれぞれ半分(はんぶん)を持(も)ち、合致(がっち)すれば契約(けいやく)が有効(ゆうこう)とされました。

道教(どうきょう)の呪術(じゅじゅつ)においては、符(ふ)はまさにそれです——人(ひと)と高(たか)き力(ちから)との誓約(せいやく)の半分(はんぶん)。書(か)かれた印(しるし)が一方(いっぽう)。もう一方(いっぽう)は誓約(せいやく)を交(か)わした霊的(れいてき)存在(そんざい)。人(ひと)が符(ふ)を示(しめ)すと、高(たか)き力(ちから)がその誓約(せいやく)を「認識(にんしき)」し、応(おう)じて働(はたら)きます。

符(ふ)の構造(こうぞう)

古典的(こてんてき)な符(ふ)は数(すう)の要素(ようそ)から成(な)ります。

  • 黄(き)の紙(かみ) · 伝統的(でんとうてき) · 道教(どうきょう)宇宙論(うちゅうろん)における地(ち)の色 · 安定(あんてい)し、養(やしな)う
  • 朱砂(しゅしゃ)の赤(あか) · ことのほか強(つよ)く効(き)く · 伝統的(でんとうてき)には祭官(さいかん)の唾(つば)と混(ま)ぜる · 血(ち)と陽(よう)の色
  • 頭(かしら)の符(ふ) · 上部(じょうぶ)に神霊(しんれい)への呼(よ)びかけ
  • 胴(どう)の符(ふ) · 中央(ちゅうおう)に実際(じっさい)の命令(めいれい)あるいは意図(いと) · しばしば読(よ)めない秘(ひ)書(しょ)で
  • 足(あし)の符(ふ) · 下部(かぶ)に祭官(さいかん)の印(いん)
  • 呼(よ)びかけの日付(ひづけ) · 余白(よはく)に · 多(おお)くは方位(ほうい)も

符(ふ)は急(きゅう)いで書(か)かれません。祭官(さいかん)は備(そな)え、ある真言(しんごん)を取(と)り、正(ただ)しい呼吸(こきゅう)の数(かず)を息(いき)ます。然(しか)る後(のち)に筆(ふで)を執(と)る。理想的(りそうてき)には符(ふ)は筆(ふで)を上(あ)げずに一気(いっき)に連続(れんぞく)した一筆(いっぴつ)で書(か)かれます。この瞬間(しゅんかん)が呪術(じゅじゅつ)の行為(こうい)でございます。

符(ふ)は書(か)かれた文(ぶん)ではなく、縛(しば)られた力(ちから)である。文字(もじ)を読(よ)んで言葉(ことば)を求(もと)める者(もの)は、符(ふ)を理解(りかい)していない。文字(もじ)は力(ちから)の形(かたち)であり、情報(じょうほう)の伝達(でんたつ)ではない。

符(ふ)の種類(しゅるい)

守(まも)りの符(ふ)

最(もっと)も多(おお)い形(かたち)。戸(と)、寝床(ねどこ)の上(うえ)、車(くるま)に貼(は)られる。病(やまい)、悪霊(あくりょう)、不運(ふうん)な出来事(できごと)から守(まも)ります。

祓(はら)いの符(ふ)

特定(とくてい)の害(がい)を成(な)す力(ちから)——ある霊(れい)、ある病(やまい)の因(いん)、ある脅威(きょうい)——に向(む)けられる。脅威(きょうい)の場(ば)あるいは患(わずら)っている者(もの)の上(うえ)に貼(は)られることが多(おお)い。

招(まね)きの符(ふ)

ある力(ちから)を呼(よ)び込(こ)む——神(かみ)、霊的(れいてき)助(たす)け手(て)、ある質(しつ)。実践者(じっせんしゃ)はそうした符(ふ)を身(み)に帯(お)びます。

飲(の)む符(ふ)

独自(どくじ)の範疇(はんちゅう)。符(ふ)を焼(や)き、灰(はい)を水(みず)に溶(と)き、その水(みず)を飲(の)む。符(ふ)の力(ちから)が直接(ちょくせつ)身体(からだ)に取(と)り込(こ)まれる。古典的(こてんてき)伝統(でんとう)では守(まも)りと浄(きよ)めにしばしば用(もち)いられます。

巫(ふ)伝統(でんとう)との繋(つな)がり

符(ふ)は巫(ふ)シャーマンの伝統(でんとう)と直接(ちょくせつ)の系譜(けいふ)に立(た)ちます。巫(ふ) · 古代(こだい)中国(ちゅうごく)のシャーマンもご覧(らん)ください。商(しょう)代(だい)にはすでに、骨(ほね)や亀甲(きっこう)に類似(るいじ)の機能(きのう)を担(にな)う記号(きごう)が刻(きざ)まれておりました。現代(げんだい)の符(ふ)は、その最古(さいこ)の文字(もじ)呪術(じゅじゅつ)を発展(はってん)させ、組織化(そしきか)した形(かたち)です。

九字(くじ)切(き)りとの繋(つな)がり

興味深(きょうみぶか)い交差(こうさ)——日本の九字(くじ)切(き)り——「九(きゅう)つの字(じ)の切(き)り」——は道教(どうきょう)符(ふ)伝統(でんとう)と密接(みっせつ)に結(むす)ばれます。九音節(きゅうおんせつ)臨(りん)・兵(ぴょう)・闘(とう)・者(しゃ)・皆(かい)・陣(じん)・列(れつ)・在(ざい)・前(ぜん)は道教(どうきょう)の抱朴子(ほうぼくし)に由来(ゆらい)します。九字(くじ)切(き)りと共(とも)に業(わざ)を行(おこな)う者(もの)は、継(つ)ぎ進(すす)められた符(ふ)伝統(でんとう)の中(なか)で業(わざ)を行(おこな)っております。シャーマニズム的(てき)文脈(ぶんみゃく)における九字(くじ)切(き)りもご覧(らん)ください。

儀礼(ぎれい)実践(じっせん)としての書道(しょどう)

西洋(せいよう)実践者(じっせんしゃ)にとって驚(おどろ)くほど重要(じゅうよう)となる点(てん) — 書(か)く行為(こうい)そのものが呪術(じゅじゅつ)であり、出来上(できあ)がった符(ふ)だけが呪術(じゅじゅつ)ではない。書(か)く行為(こうい)——集中(しゅうちゅう)し、瞑想(めいそう)的(てき)で、特定(とくてい)の呼吸(こきゅう)の律動(りつどう)の中(なか)で——が、書(か)き手(て)の意図(いと)を紙(かみ)へと移(うつ)します。集中(しゅうちゅう)せぬ祭官(さいかん)が書(か)いた符(ふ)は働(はたら)きません。最高(さいこう)の集中(しゅうちゅう)の瞬間(しゅんかん)に達人(たつじん)の祭官(さいかん)が書(か)いた符(ふ)は働(はたら)きます。

これが道教(どうきょう)諸伝統(しょでんとう)で書道(しょどう)の業(わざ)がかくも真剣(しんけん)に受(う)け取(と)られる理由(りゆう)です。単(たん)なる美(うつく)しき書(しょ)ではなく、文字(もじ)を介(かい)した呪術(じゅじゅつ)業(わざ)のための心身(しんしん)の備(そな)えなのでございます。

マーク・ホサックは日本の真言密教(しんごんみっきょう)におけるこの儀礼(ぎれい)的(てき)書道(しょどう)の業(わざ)を、博士論文(はかせろんぶん)『日本美術(にほんびじゅつ)における悉曇(しったん)』にて研究(けんきゅう)しております。悉曇(しったん)——日本の儀礼(ぎれい)実践(じっせん)で書(か)かれるインドの梵字(ぼんじ)——は符(ふ)と類似(るいじ)の論理(ろんり)で働(はたら)きます。書(か)かれた字(じ)が仏(ほとけ)あるいは菩薩(ぼさつ)の身体的(しんたいてき)臨在(りんざい)でございます。

現代(げんだい)実践者(じっせんしゃ)にとっての符(ふ)

西洋(せいよう)で符(ふ)を実践(じっせん)できるか。答(こた)えは両刃(りょうば)。古典的(こてんてき)な祭官(さいかん)による符(ふ)業(わざ)は、道教(どうきょう)系譜(けいふ)における長(なが)い伝授(でんじゅ)を要(よう)し——中国(ちゅうごく)・台湾(タイワン)の外(そと)では見出(みいだ)し難(がた)い。けれども、ある基本(きほん)形(けい)は適応(てきおう)された枠(わく)においても有益(ゆうえき)です——守(まも)りの意図(いと)を意識的(いしきてき)に紙(かみ)に書(か)き、清(きよ)らかな儀礼(ぎれい)で焼(や)き、然(しか)るべき場(ば)に納(おさ)める。これは古典的(こてんてき)な符(ふ)業(わざ)ではないが、その親(した)しき隣(となり)に立(た)ちます。

Shamanic Worlds における符(ふ)

当方(とうほう)では符(ふ)伝統(でんとう)は文脈(ぶんみゃく)的(てき)背景(はいけい)として紹介(しょうかい)されます。儀礼(ぎれい)的(てき)書道(しょどう)の業(わざ)の諸要素(しょようそ)が日本・道教(どうきょう)的(てき)流(なが)れの業(わざ)に流(なが)れ込(こ)みます——とくに九字(くじ)切(き)りと真言密教(しんごんみっきょう)の悉曇(しったん)伝統(でんとう)との繋(つな)がりにおいて。

働(はたら)く文字(もじ)

儀礼(ぎれい)的(てき)書道(しょどう)の業(わざ)は狼(おおかみ)シャーマンの奥儀(おうぎ)の道(みち)における日本・道教(どうきょう)的(てき)流(なが)れに流(なが)れ込(こ)みます。

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マーク・ホサック博士(はかせ)

東(ひがし)アジア美術史(びじゅつし) 博士(はかせ) · 八卦掌(はっけしょう)の実践者(じっせんしゃ) · 狼(おおかみ)シャーマン

二十五年(にじゅうごねん)以上(いじょう)にわたる道教(どうきょう)的(てき)・シャーマニズム的(てき)身体技法(しんたいぎほう)の実践(じっせん) · 中国(ちゅうごく)と日本における研究 · 忍術(にんじゅつ)の流派(りゅうは)。『狼(おおかみ)シャーマンの奥儀(おうぎ)の道』著者(ちょしゃ)。

アイリーン・ヴィースマン

歴史学修士(れきしがくしゅうし) · 博士課程(はかせかてい) · シャーマン · メンター

日本の民間呪術(みんかんじゅじゅつ)における道教儀礼(どうきょうぎれい)を研究主題(けんきゅうしゅだい)とする宗教史家(しゅうきょうしか) · 京都の安倍晴明神社(あべのせいめいじんじゃ)における重要(じゅうよう)な体験(たいけん)。